グレッグ・ベア『凍月』(ハヤカワ文庫SF)

グレッグ・ベアをなにか一冊読んでやれと思って一番薄いこれを読んだが、ハードSFの体裁を取りながら、政治に関する態度が主題になっている。前書きで、合衆国には政治的なものに対する不信感が強く、なにがあってもほかのだれかが責任を取ってくれると信じている、という印象を記した後に続いて、執筆の動機が述べられている。「……そしてたぶん、この物語を書くきっかけになったのは−アメリカSF&ファンタジイ作家協会(SFWA)で七年にわたって運営に携わった経験だ。苦情処理委員をやり、刊行物の編集をやり、副会長になり、最後には会長もつとめた。そしてわかったのが、現チェコ大統領ヴァーツラフ・ハヴェルの例はあるものの、作家ほど議論ずきで無骨で、政治や政治家にたいして懐疑的な個人主義者はいないという事実だ。/SFWA会員−わたし自身も含めて−の政治にたいするうぶさ加減といったら、驚くほどだった。つぎのような文面の会員の作家からの手紙を読むたびに、胸引き裂かれる思いがしたものだ−「幹事役、またほかのいかなる役職も、おひきうけすることはできません。というのも、わたくしの人生哲学が政府や政治と相容れないものである以上、おひきうけする資格がないと考えるからです−が、ひとつ提案できるのは……」また、大事な投票(少なくともわたしが大事だろうと考えた投票)があっても、投票者数は現役会員の半分にも満たなかった。/この経験から生じた感情と欲求不満が詩神の肉挽き器にほうりこまれて、でてきたのが『凍月』である。」なんだか耳に痛い文章だ。日本人は政治には興味は薄いと思っていたが、アメリカ人もそうなのか? 実感としてはわかりにくい。