『スクリーム・オブ・アント』(イラン/2006/90分/監督:モフセン・マフマルバフ)

イラン人夫婦によるインド見聞記、という題材にまず面食らう。次に面食らったのは、映画の視点だ。まるで欧米人の視点みたいに、インドを不思議の国として捉えている。日本人の目からはごく近くに見えるイランにして、インドはかくのごとく不可解な国なのか。序盤は夫婦の行き違い、葛藤、関心の違いが描かれて、マフマルバフ版『シェルタリング・スカイ』かと思ったが、あそこまで救いのない展開にはならなかった。インドの神秘性を肯定はしていない。インドの僧になったドイツ人の口からも、宗教に対する懐疑が漏れている。しかし、ガンガーで裸の男性たちとともに沐浴するヒロインを最後に描いて、信仰心は肯定されている。どこにでもいる男性に見えた聖者からもらった言葉には、世界中のあらゆるものを見聞した男が自宅に帰ってみれば、木の葉についた滴にそのすべてが映っていることが記されていた。自宅にいても、世界を知ることはできる、とそういうことか。