ハニ・アブ・アサド『パラダイス・ナウ』(フランス・ドイツ・オランダ・パレスチナ)[アップリンク・ファクトリーX]

パレスチナ自爆テロリストを題材にした作品だが、食い足りない。主人公たちの閉塞状況、最初の失敗のあとの心境の変化がうまく伝わってこないからだ。失敗後のドタバタした展開も集中力を削ぐ結果となっている。先に帰還したハーレドは必死になってサイードを探しまわるが、その必死さの中にはサイードがまだ腹に巻いている爆弾(組織の手に寄らなければはずすことができない)が爆発してしまうのじゃないか? という心配は入っていなかったのだろうか? だとしたら、そのへんの恐怖も描くべきだった。ハーレドが心変わりしたのは、サイードを追うなかで丘から故郷の街並を眺め、その街並を横切って男の子たちが凧を飛ばす場面を目撃し、そこから生きることに対する愛情を確認したが故に、英雄の娘の説得が可能な選択肢として思い描けるようになったからだろうが、演出が弱く説得力に欠ける。凡作だなあ。