渋谷で映画

ユーロスペース。12:00〜。チョン・ジョウン『子猫をお願い』。すごくいい。カメラが主役の女性たちに寄り添うように前に後ろにまわるところでは、あたかも彼女たちのなかに混じって、彼女たちの一人であるかのように感じる。五人は均等にシナリオを振り分けられているわけではないので、五人ということを前面に押し出して見えるチラシは誤解を招く。仲好し五人組ではあるけれど、五人全員を均等に描く必要がなかったことは映画を見ればよくわかる。両親を亡くし、年老いた祖父母とともに、今にも崩れ落ちそうなあばら屋に住んでいるジヨンが物語の鍵を握る。上昇志向の強いヘジュが葛藤を招く。双子の中国人姉妹はマイペースで、うるさく顔を出してこないが、絶好のポジションでそこにいる。突破口を開くのが、一見おっちょこちょいでお人よしのテヒだ。ペ・ドゥナという女優はおもしろい存在感だなあ。美人ではないし、スマートでもないし、わかりやすいかわいらしさに欠けている。すぐ近くの道端にとぼけた顔で立っていそうで、別に友達でも知り合いでなくても、「いるな」と思って、ホッとするようなところがある。あっ、そりゃ猫とおんなじか。

シアター・イメージ・フォーラム。14:40〜。ダーグル・カウリ『氷の国のノイ』。う〜ん。アイスランドの寒村、と言っても、生活レベルは高く、家は広いし、道路はきれいだし、人々の身なりも整っている。ただ、希望だけがない。「札付きの不良」と、だれかのセリフにあったが、海を隔てた英国やアメリカの不良に比べると、もうかわいいといったレベルだろう。冬の村には、驚くほど人が歩いていない。授業を抜け出して、いつも小銭をかっさらい、ビールを呑むガソリンスタンドに、ほかに人がいたためしがない。ノイの不幸は気の合う友達が一人もなく、理解者といえばわずかに本屋の親父がいるきりだったことだ。都会から戻ってきたその娘が突破口になるかと思え、二人でハワイに脱出するという夢を見るが、それはあまりにも夢すぎた。『子猫のお願い』のテヒとジヨンが空港で「どこへ行く?」と言って軽やかに出発するのとは異なり、ノイとイーリスはどこへも行けない。ノイは思い余って猟銃で銀行強盗を企むが、そのときの銀行員の対応がいい。受付の女性は「なにやってんの?」といった顔で、首を振りつつ手元の作業に戻り、奥から出てきた支店長らしき男性は銃口を突きつけられているのにも構わず「ガキが鉄砲をオモチャにするな」とばかりに、鉄砲を無理やり奪ってノイを外に追いだす。正しい大人の対応だ。それでも、ちょっとためらったあとで、再び銀行に入って貯金を引き出したノイはなんとも図太い。結局、地震で父親、祖母、本屋の親父、イーリスと、わずかばかりの理解者をことごとく失うラストには唖然。脱力感。祖母からもらった幻灯機(というにはチャチすぎる、二枚の写真を交互に見せるだけのオモチャ)にハワイの景色が、波打つ現実の場面となって現われるが、それも空しさを増すだけだ。ノイがそこに行けるとは思えないのだ。う〜ん。別のアプローチがあったかも?