安東ウメ子さん、先祖の地へ旅立つ

朝日新聞(というかWeb)では、「アイヌ民族ムックリ奏者、安東ウメ子さんが死去」と記されていた。「安東ウメ子さん(あんどう・うめこ=アイヌ民族ムックリ奏者)は15日、大腸がんで死去、71歳。通夜は16日午後7時、葬儀は17日午前10時から北海道幕別町札内青葉町311の2の札内東コミュニティセンターで。喪主は次女春江(はるえ)さん。自宅は同町千住286。 アイヌ文化の伝承者で、伝統的なウポポ(歌)とムックリ口琴)の名手として知られた。 」(無断転載)

CDを二枚、ライブを一度経験しただけの身には、安東ウメ子さんはまず「歌い手」であったので、見出しの表記にひっかかる。
ムックリ奏者」と銘打ったことで、一般の人には「どうでもいいこと」として認識されるだろう。「ムックリ口琴)」と記事の中では記されているが、多くの人にはなじみのないものだろうし、明確にイメージすることもできない。流し読みして、数秒後には忘れてしまうのが落ちだ。

しかし、ここを仮に「歌い手」「歌手」としたら、どうだろう? 「アイヌ民族の歌手、安東ウメ子さんが死去」と。印象はだいぶ変わるはずだ。「ムックリ奏者」などという、得体のしれないものより、よっぽど人の興味をかき立てる。だれもが歌を欲しているのだから。

CDを発売していることも書いてほしかったところだ。商業的な宣伝をするわけにはいかないのか? それだけのことを述べるだけのスペースもなかったのか。

今年、浅草で安東ウメ子さんのライブに触れたとき、バックをサポートするOKI氏は、ウメ子さんの健康状態が思わしくないことを述べた。治療を続ける中で、名盤『ウポポサンケ』のレコーディングをしたことを言った。けれど、ウメ子さんの軽やかな歌声を聴いていると、そんなことはすっかり忘れてしまって、足元がふわふわ軽くなって、そんな夢見心地の中で、またライブがあったら絶対行くぞと思っていた。

アイヌの伝統的な追悼のマナーは知らないので、CDを繰り返し聴くことでウメ子さんの追悼に代えるしかない。

『ウポポサンケ』の一番最後に「アルオー」という歌がはいっているが、なにかこの歌のような、どこか明るい暢気な歩みで、ウメ子さんが先祖の地へ歩いていったように思うのはぼくだけだろうか?