人生途上旅途上

『人生途上旅途上』(自然食通信社)。一人芝居をしながら全国を行脚しているという、下北は関根浜出身の役者、愚安亭遊佐のエッセイ集。同じ下北の出身なのに、この人のことは全然知らなかった。とは言え、何年か前、下北半島の付け根にある六ケ所村の原子力再処理施設を巡るドキュメンタリー『田神有楽』が阿佐谷ラピュタで上映された際、その関連企画として階下の劇場ザムザで、この愚安亭遊佐の芝居があったのだ。あのとき観ておけばよかったのにと、今になって悔やまれる。
筆者が演じている舞台(それは野外であったりするが)の写真がふんだんに載っているが、そのたたずまいや表情を見るにつけ、写真とともに掲載されている台本の一部を読むにつけ、舞台に接したい気持ちが募る。
潮の香りを濃密に感じる舞台だろう。海の豊かさ、海に生きる喜びをともに味わえる舞台だろう。そしてその豊かな暮らしを蹂躙する暴力(原子力行政のことだが)に対して激しい怒りをおぼえる舞台だろう。この本を読んだだけでそれだけのことがわかるのだ。
役者である以上、実際に演じている場に接しなければその真価がわからないのは当然ながら、この人、なかなか筆が立つ。自伝などをものしたら、すこぶるおもしろいだろうと思わせる。