「珈琲時光」「父、帰る」

吉祥寺バウスシアターにて『珈琲時光』(侯孝賢)。
『往年童時』『恋恋風塵』などの諸作で、小津安二郎と比べられた、台湾の侯孝賢が、小津安二郎生誕100年を記念して、現代の東京を舞台に撮った作品―なのか?
「現代」を舞台にしているというよりも若干の古めかしさを感じるのだが。
主人公の陽子はフリーライターだと、あとでホームページをのぞいて知ったが、映画を見ているかぎりはよくわからない。台湾の作曲家のことを調べているのも、純粋に自分の興味でやっているようにも見えるし(といってもそれほどのこだわりは感じられない)。文章を綴っているシーンが一ヶ所でもあれば違ったと思うが。
見る前から予想していた通り、なにか結論らしいものを導きだすわけでなし、淡々と話は進み、そして終わる。陽子が妊娠し、台湾の彼氏と結婚するつもりがないと宣言するのが、もっとも大きなドラマ的要素だ。肇の役割も今ひとつしっくりしていない気が。

新宿武蔵野館にて『父、帰る』(アンドレイ・ズビャギンツェフ)。
ストーリーが完全に破綻していて、なんの謎解きもないまま、どこへも着地しないで終わる。それでも父親が生存中は緊張が持続していたが、その死後は気の抜けた無意味な付け足しに堕してしまった。
とは言え、この映画の主役は、揺れる水面、森の中で変化する日の光、雄大な空いっぱいに広がる圧倒的な質感の雨雲、急に激変する天候、朝日の中でぼやける草むら……それ自身のスピリッツを持った自然のさまざまな様相だ。