TOKYO FILMeX

第5回東京フィルメックスの最終日。
ボーディ・ガーボル『ドッグス・ナイト・ソング』。ああこの監督は本当になにを考えてるんだろう? 『ナルシスとプシュケ』ではきわめて真っ当な歴史ロマンをとれる素養があること(実際はそうなってはいないんだが)、そういう意味では一般受けする作品が作れそうな予感すら漂わせていたのに、一転して意図の容易につかみがたい物語と映像の連続となる。パンクバンド(?)の演奏は破れかぶれな魂の叫び、というか愛の叫び。いやに印象に残って、夢に出てきそうで困る。偽司祭を監督自身が演じているが、ガーボルはこの偽司祭という立場になにか共感でも持っていたのだろうか?

ニキル・アドウ゛ァーニー『明日が来なくても』。主にアジアを中心に、作家性の強い映画を集めるという、この映画祭の趣旨にはまったく合致しない、ご存知、単純な世界観の、歌って踊る、だれもが楽しめる、客引き用(?)エンターテインメント。いやあ楽しい。インドは健在。シャー・ルク・カーンは少し年食って、顔が怖くなった。ニューヨークのロケーションがすばらしい。これまで映画で見た中でこれほどニューヨークが魅力的に見えたことがあっただろうか? 美しく、整然とし、光り輝き、夢と希望が溢れ出ている。ここは人種差別もホームレスもテロも汚職も絶望もないのだ。すばらしい。

夜6時50分よりクロージングイベント。観客賞と審査員特別賞のダブル受賞は、バフマン・ゴバティ『Turtles Can Fly』。大賞がアピチャッポン・ウィーラセタクン『トロピカル・マラディ』(タイ)。どっちも見てません。

ガイ・マディン『ドラキュラ 乙女の日記より』。ある意味完璧な作品。地元のバレエ団の演目をテレビ用に撮ってくれとの依頼を受けて作った、あまり気乗りのしなかった作品らしいが、そんな事情とはとても思えない、隅から隅まで計算しつくされた映像作品。マーラーの振幅の大きい音楽が全編にあふれ、踊りとマッチして雰囲気を盛り上げるが、最初のうちは二番「復活」の全曲に合わせるかと思って興奮した。いろいろ取り混ぜて細切れに使ったために統一感が薄まったのが残念。バレエの美しさ、表現力は絶句もの。ドラキュラが東洋人(中国人だとあとでわかった)なのには意表をつかれたが、無表情でタイトなそのたたずまいがなかなかよろしい。監督のサイレント映画に対する愛情と偏執は存分に伝わってくるが、これがカラー作品だったらと願わずにいられない箇所がないとはいえない。もっと美しい、心とろけさすような耽美的な作品になったのではないかと。逆に無惨な出来に終わった可能性もあるゆえ、(シーンごとに彩色を変えているとはいえ)モノクロとして完成させたことで「完璧」として踏みとどまった作品、といえるか?