朱川湊人『白い部屋で月の歌を」(角川ホラー文庫)

二編収録されているうち、最初の「白い部屋で月の歌を」は第十回日本ホラー大賞短編賞受賞作。ていねいな書きぶり。最大の難点は人形がこのような端正な文体を駆使している必然性がまるでないことだ。ネタが割れてしまえば、えらく不自然。次の「鉄柱」もけれん味のない文章ですらすら読める。「自殺」を選ぶと言うことに関して結論は出していない。未来が今よりも悪くなると確実にわかっているがゆえの自殺、という主題だが、正面切って反論するのは難しい。ただ、この小説では後に残される者の立場から恨みがましく捉えているように感じられる。死期を自分で決めるという、一部のアメリカ先住民の、むしろ明るく肯定的なとらえ方とはそこが違う。