星野道夫『森と氷河と鯨 ワタリガラスの伝説を求めて』(世界文化社)

星野道夫の遺稿を加えた事実上の遺作?の改訂再版。写真が豊富でうれしい。いずれも一度二度は読んだことのあるような文章ばかりだが、星野道夫の文章は歌だ。耳に馴染みのあるメロディーが流れ、特有の風景を醸しだし、少なくともそれを読んでいる間は持続する『場』がある。決して飽きることはないだろう。この先何度でも読み返すだろう。ただ、それが失われたものの歌、今この瞬間にも滅びつつあるものの歌であることが悲しい。そして、十年後、二十年後に読み返すとき、そのすべてが「すでに失われたもの」となるのだとしたら、そのとき星野道夫の文章はどんな印象を与えるだろう? 「あのときはよかった」「まだよかった」と、後ろ向きの感想になってしまうのだろうか?