エミリー・クレイグ『死体が語る真実 9.11からバラバラ殺人まで衝撃の現場報告』(文春文庫)

アメリカの法人類学者による回顧録。死体を調べる仕事のうち、”軟組織”(皮膚、筋肉、内臓)を担当するのが「法病理学者」であり、硬い骨を担当するのが「法人類学者」なのだという。前者は医学博士で広義の医者であるのに対し、後者は文学(哲学)博士の称号を持つ学者だそう。筆者が十分に『人間らしい」人柄のおかげで、共感のできる本になっている。仕事に対する誇り、ときに恍惚として我を忘れてしまうほどの没頭には羨望を覚える。アメリカ政府の陰謀だという疑惑のある例の9.11に関しては一つの疑念(「タワーの崩壊による影響になぜあれほど大きなむらがあるのかーなぜ比較的無傷の遺体と細かな骨の破片が同じ場所で見つかったりするのだろう」p365)が示されているが、残念なことに現場の圧倒的な悲惨さを前にその疑念は封印されている。
仕事の中身自体はこの本を一読すればわかることだが、それにしても「法人類学」とはわかりにくい表記だ。
ネットでちょっと検索してみた。
「法考古学(forensic archaeology)とは、何か? それは、考古学の技術・考え方を犯罪捜査(criminalistics)に生かすことである。法人類学(forensic anthropology)などと共に、法科学(forensic science)の一角を担う」(第2考古学 2006)
「法人類学とは、簡単にいえば法と政治の人類学ということなのですが、私は大きく二つの視点でアプローチしています。まず一つは「国家と民族」という視点です。(中略)もう一つは「法」という視点です。「法」というとみなさんは六法全書に書かれた法律のことを思い浮かべるかもしれませんが、それとは違います。ここでいう「法」とは、人々の行動を律する法律以外の規範、例えば慣習や伝統、宗教、道徳、エチケットのようなもののことです。」(森 正美 助教授 - Teacher's Link - 京都文教大学
「法人類学は、文化人類学と基礎法学との学際的研究分野です。私は、学部で民族学考古学専攻に、大学院では社会人類学専攻に居て、学部・大学院で法律学の授業を受けたことがありません。法学者が書くものを読んだり、法社会学会での研究発表を聴くことで勉強しています」(法人類学リソース)
これがみんな同じ「法人類学」なんだろうか?