ジェニファー・トス『モグラびと ニューヨーク地下生活者たち』(集英社)

ずいぶん前に一度読んだノンフィクションを再読。この本を見るまではそんな場所があるとも知らず、そんな人たちがいるとも知らず、食い入るように読んだが、最終的に一抹の物足りなさをおぼえたのが、再読してもやっぱりそうだ。モグラびとたちの悲惨な来歴、ユニークなキャラクター、風変わりな生活形態が詳細に語られ、それはそれで興味深いのだが、地下の世界があまり真に迫ってこないのだ。何層にもわたる地下だから相当暗いはずなのに、その暗さが実感できない。灯りとしては地上に近いところでは鉄格子から漏れてくる外光が、それより下では電線から得た電光が唯一のものであるはずだが、その辺の描写が薄い。複雑にからみあった構造は描写が困難ではあるだろうが、すぐにでも迷ってしまいそうな不安感をもう少し醸しだしてもらいたかったものだ。作者の興味はもっぱら人間のほうにむけられていて、トンネルそれ自体にはないようだ。やや残念。