高野秀行「怪しいシンドバッド」(集英社文庫)

黒田硫黄の表紙に惹かれて本屋で手に取ってみたが、この著者、なんと『幻の怪獣ムベンベを追え』を執筆した張本人だと言うではないか。しかも、集英社文庫には既に本書も含めて六冊も収録されているではないか。通勤電車で降車するのも忘れるくらい夢中になって読みふけった、あの痛快きわまりないルポの執筆者がこれほど活躍していることについぞ気づかなかった。なんたる不覚! 『ムベンベ』が文庫化されていたのは実は知っていた。本屋で見かけて、ああ、この人が書いたのか、ということは認識していたが、持っている本だし、「幻獣」とはなんだ? とタイトルの変更にやや反発を感じたこともあって、手に取らなかった(出版社が変わったから、タイトルも変更しなくてはいけなかったということか? 原題のほうがテンポがいいし、へたに「幻獣」などという二字熟語を使うとそういうカテゴリーの生き物がいるという誤解を招きかねないーまあ、講談の新書に『幻獣の話』なる本はあったが、それはまた別の話だし)。