高沢皓司『宿命 「よど号」亡命者たちの秘密工作』(新潮文庫)

燃えあがる理想を胸に果敢に明日に飛び立ったはずの革命家たちを見舞ったあまりにもむごたらしい末路を描きだして見事。最近「カルト」団体についての本をいくつか読んだが(『別冊宝島「救い」の正体』、米本和広『カルトの子』『洗脳の学園』とか)、北朝鮮はまさに「カルト」国家と言っていい。かつてない規模で膨らみ上がった「カルト」団体。北朝鮮がいまだに生きながらえているのは、全世界的に「洗脳」の技術が発達したのと軌を一にしているのかも。
本書には気になる点も多い。・時に小説風の叙述に流れ、わが身ならぬ人物の胸中を吐露してしまっている。それが当たっているにしろいないにしろ、本人たちは怒るだろうな。・膨大な証言や証拠を積み重ねてこのような結論を導き出したと思われるが、事実関係の記述が不十分。あまりに煩雑になるので注釈をつけるのはやめたと「あとがき」に記されているが、現状では逆に「少なすぎる」と感じ、信頼性を損なっている。・著者も赤軍派の活動家だったことが編集者の後記で記されているが、なぜ本文でそれに触れていないのか? そのことをしっかり書いていれば、より叙述に信頼性が深まったろうに。「よど号」グループとどうしてこれだけ接近できたのか、どうして懇意にできたのか、これまで知らされなかった数々の事実に肉迫することができたのかがより納得できたのに。