アルフレッド・ベスター『ゴーレム100(100乗)』(国書刊行会)

山形浩生による懇切丁寧な解説にわたしごときが付け加えるべきものはなにもない。ただ、「もう少しおもしろくできたろうに」と残念。舞台は未来の巨大スラムに限定され、物語の展開される時間も短い。キャラクター設定に深みにはなく、感情移入もしにくい。明確な対立の図式もなくて、展開は謎解きに頼っている。文章は会話が主体なせいもあり、拍子抜けするくらいにスラスラ読めるが、終盤の文体実験はそれほど必然性が感じられない。なんでこんなに否定的なことばかり書いているんだろう? 要は満足できなかったってことだよな。アルフレッド・ベスター的な華麗な小説作法、壮大な物語世界は非常に魅力的だ。大好きだ。しかし、実際に読んだ作品にはそれほど満足できていない。『分解された男』はそれなりに堪能したが、『虎よ! 虎よ!』は「こんなものか?」と物足りなさをおぼえた。とはいえ、ベスター以上にベスターな作品などあるだろうか? 「ワイド・スクリーン・バロック」? チャールズ・L・ハーネス? 『ゴーレム』だスタージョンだのアヴラム・デイヴィッドスンだの『宇宙舟歌』だの『ダールグレン』だのが翻訳されるこのご時世だ。なにかの間違いでハーネス(の代表作)が翻訳されないとも限らないか?