花輪和一『刑務所の前』1〜3(小学館)

いつ出るのか、果たして出るのか、このまま尻切れトンボで終わってしまうんじゃないかと懸念していた『刑務所の前』の続刊にして最終巻(!)第3巻がついに出たので、話の流れを忘れていることもあって通読した。情報量が多く読むのに骨が折れる。話の流れだけを追ってもつまらない漫画ではある。ガンマニアでもプラモデルマニアでもない身にとっても、サビサビの拳銃が著者の執拗な追求によって徐々によみがえっていく過程には胸躍らされる。著者の驚くべき記憶力によって再現されたムショの描写も、同じ空気を呼吸しているかのように感じさせるほど見事だ。物語部分を担う中世劇は父娘が仕事を終えて仲むつまじく食事をする場面で終わって、なんら明瞭な結末がないように見えるが、結論は既に何十ページも前に出ていたのかも知れない。父娘の関係がうまく行きそうな場面に限って、父娘を捨てて家を出た母親のことを娘が切りだして、父親がズーンと沈み、娘が「私一人だけ幸せですみません!」とあやまるという展開になるのだが、物語が進むに従って、それが定番ギャグ化していく。「おいっ!」という読者のツッコミを想定して、わざと娘がやっているふうに見えるのだ(いや、「見せている」)。終盤になると、父親が落ちこむ前触れとしてゴオーッと風が吹き、草木がザワザワ騒ぐという描写が加わるが、問題の場面で風が吹き草木が騒いだのを父親が落ちこむ前触れと見た娘が土下座してあやまった後で、父親が別に怒っていなかったことを知り、「な〜んだあ。ちょっとしくじっちゃったあ」と娘はつぶやくのだ。これこそ最大級の「おいっ!」である。おまえは謝罪ごっこをして遊んでいただけなのか? しかし、娘が真剣に悩んでいたことは過去にしっかり描写されている。ここで読み取るべきメッセージは、父親の気持ちを斟酌して勝手に罪悪感を持つことの無意味さを娘が悟ったということか。幸せであってもいいのだと、娘は救われたのだ。