スティーヴ・エリクソン『アムニジアスコープ』(柴田元幸訳/集英社)

二年も前に購入したものだが、やっと読んだ。読むのが惜しかったというのがある。いつもながらの濃密なエリクソン文体に圧倒される。今回は珍しく笑える要素がたっぷりあり、存分に楽しませてもらった。エリクソンの意外な懐の深さが見えた気がする。エリクソン小説で魅力的なのは夢幻的な要素が手に触れるようなリアリティでまざまざと描き出されていることで、その独特の感触は今回も堪能できた。一人称の私小説的体裁を取っていることもあり、内省的自虐的な要素がこれまで以上に強いが、読んでも陰々滅々とした気分にはならない。それは小説の最後が希望の言葉で締めくくられているというような単純なことではない。作者の人生に対する没頭、書くという行為に対する追及に、知らず知らずのうちに勇気が奮い起こされるのだ。