『ブッダは恥辱のあまり崩れ落ちた』(ハナ・マフマルバフ監督/イラン/2007/81分)

マフマルバフ・ファミリーの末っ子ハナによる初の長編映画。今回一番の注目作。タイトルはいうまでもなく父モフセン・マフマルバフの著書『アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない 恥辱のあまり崩れ落ちたのだ』に準拠している。まさにそのアフガニスタンバーミヤンの仏像破壊現場が映画の舞台。序盤は主人公の少女(というよりほとんど幼女に見えるが)バクタイが学校に行くための苦闘を描いて、ああ、いつものイランほのぼの児童映画路線か、これはすでにパターン化しているが何度見てもやっぱり楽しいおもしろい、このままどんどん行ってよし、と思っていたところ、タリバンごっこをしている男の子たちが現れて事態は一気に緊迫。バクタイが穴に埋められて、少年たちが石を持ち上げた場面では最悪の事態も予想された。たわいもない遊びが一歩を踏み出して、取り返しのつかない事態を招くその間際をきわめてビビッドにとらえた演出だと思う。その緊迫感は洞窟の奥に捕られたほかの少女たちとの出会いを経て、一人脱出に成功するまで続いた。ラストで、この少年たちが再び現れた際、友達のアッバスは死んだふりして難を逃れ、逃げ出したバクタイにもそうするよう叫ぶ。死んだふりすれば、あとはほっといてくれる、「死ねば自由になれる」と言って。遊びのルールでは確かにそれで間違いない。「死ななければ自由になれないアフガニスタンの状況」を象徴的に描いているとか、ルールに従順にならなければ生きていけない状況をあらわしているといった意味をそこに重ね合わせるのはやや苦しい気がする。いや、上映後のQ&Aでハナがそういったニュアンスのことを語ったように思えたので(誤解かもしれない)。まあ、主人公バクタイはこれを明確に遊びと認識していて、「戦争ごっこは嫌い」と明言しているからして、強引にこの遊びに参加させた少年たちに非はあるんだな。その意味では、ハナの語ったこと(とわたしが解釈したこと)は間違いではないわけか。ハナももう19歳。スリムな美少女で実に堂々としていた。すごいな。なんでこんなに客が少ない?