キム・ギドク『悪い男』(2002)

いつもの強烈なキム・ギドク映画(といってもこれを含めて四本しか見てないんだよな)。「女性なら誰もが絶対に考えたくないこと」だが、逆に男ならだれもが想像してしまうこと」ー「欲しいと思った愛を手に入れるために」「好きになった女性を暴力的なやり方で自分のものにしてから優しくしたい」という「間違った想像」、「社会的には”悪”と見なされてしまうこと」、「でも、その”悪”も純粋な”愛”になりうることを描いてみたかったんです」と、特典映像のインタビューで監督自身が語っていて、まあ、その通りの映画ではある。主人公にまったく言葉を発させず、常に陰から、そしてマジックミラー越しにのぞかせることで、主人公は限りなく観客視点に近づいて、後ろめたさや欲望を共有することになるが、主人公が徐々に画面に出しゃばり始めて、激高して「ヤクザ風情が何が愛だよ」と(驚きの甲高い声で)言葉を発するまでになるにいたって、この映画は「ヤクザ者」という限定された存在を対象にしたものになってしまった気がする。最終的にはヤクザ者のファンタジー、願望充足といった印象なのだ。腹をナイフで刺された主人公はあのとき川辺で死んでしまい、その後に映像として描かれたことはたぶんすべて望んでも叶わぬファンタジーなのだろう。